福田家のレシピバトン
RecipeBaton of the Fukudas

「我が家のおっきりこみ」

「いずれ、俺の嫁が覚えるんだろうな〜  って思ってたけど、あれ、嫁いないな…って(笑)」

コーヒーカップを置きながら、依頼者の福田さんは続けます。

image01

「だから、俺がおふくろの味を
 覚えるしかないと思ったんだよね。
 それを撮ってほしいのよ。
 自分が教わることを、贈り物にしたい。
 それが、せめてもの親孝行になる気がする」

聞けば、撮影の前日はお母さんのお誕生日。

福田さんは今回の撮影を、
お母さんともお付き合いの長いお友達も呼んで、
みんなでお母さんから料理を教わろう、
という企画にしました。

料理は、群馬県の郷土料理「おっきりこみ」。
各家庭によって麺のこね方や具材が違うそうですが、
福田家では油揚げ、里芋、ネギ、牛肉がスタンダード。

福田さんの曾祖母さんが作っていたのを
お父さんが見よう見まねで学び、
お父さんの定年まではお母さんが作り、
定年後はお父さんがまた、本格的に作り始めたという一品です。

「小さい頃、こねるところから手伝って、
 毎週土日に食べてたんだよね。
 変な話、あと何回食べられるんだろうなって」

image02

ちょくちょく実家には帰っている福田さんも、
親子で台所に立つのは久しぶり。

エプロンをつけたお父さんと
ボウルを中心に向かい合って、
粉の種類から教わりながら
中力粉をこねていきます。

「量はどれくらい?」
「適当だよ」

これぞ男の料理!という感じに
だいたいが「適当」なお父さん。

「レシピブックの表記、適当ばっかりになっちゃうよ!」

向かい合って話をするのは久々とのことでしたが、
長年連れ添ったお笑いコンビのようなやりとり。

 

「粉をこねる時は、誰かいたら抑えてもらうんだ。
 お前ぇは一人だからできねえだろうけど(笑)」

  「なんか言い方にトゲがあるな!」 

 

ふたりを笑顔で見守るお母さんは、
時に優しく場をまとめます。

「俺の手が小さいのって、どっちに似た?」

粉をこねながら、普段では
聞かないようなことを聞く福田さん。

淡々と、こねる間。
もしくは、切ったり、揚げたり
鍋の火を見ながら待つ間。

料理を一緒に作っていることで、
生まれる会話があります。

親御さんは、どうしても聞かれるまで、
口を開いてくれないことが多々あるように思います。

本当は伝えたいけれど、子供にとって退屈なんじゃないか、
うとましいんじゃないか、きっと、そんなことを気にして。

だから、一緒に台所に立ってみる、って大切なんだと思います。

背中や、出来上がった料理しか見てこなかった立場からは
見えなかったことや、感じられなかったこと。

同じ目線になって、一緒の作業をすることで、
はじめてそれらに気付かされるんです。

また、料理は家庭の歴史そのものなので、その家の
思わぬエピソードに触れられることもあります。

この日も福田さんが途中、買い物で席を外した際、
お母さんがずっと書きためてきたという
レシピ集を見せてくださいました。

やけに事務的に整理番号が振られ、
区分がきっちりされていると思ったら、作成者はお父さん。

「事務系のお仕事だったんですか?」と聞けば
外をプイッと向いて照れながら、そうだよ、と。
隣で照れくさそうに笑うお母さん。

福田家の食卓をずっと支えて来た大切なレシピの数々。
いつか福田さんの奥さんになる方は、幸せです。

戻った福田さんはお父さんと一緒に
いい意味で「適当」に麺を仕上げ、
3人でキッチンに並びお汁を作り、
福田家のおっきりこみが完成しました。

「ん?ああ、この味だ…。そうだ、この味だ」
「全部適当だからな、俺のはな!」

作り始めた時より、心なしかお父さんも笑顔でした。
その後、スタッフのことも気遣っていただきお昼に。

おっきりこみに加えて、福田さんが
実家でいつも食べるという炒飯ともやしのあんかけも
作っていただき、いただきます。

「俺ができるんだから、できるよ」

福田家の味が、しっかりと手渡されました。

その後は、
お母さんを慕うお友達が花やケーキを持って
ぞくぞくと集合。おっきりこみは時間がかかるので、
代わりに福田家の餃子を教わることになりました。

みんなで包んで、焼いて、食べて、
お母さんのお誕生日にふさわしい賑わいに。

今回、福田さんが直接レシピを受け取ったことも
もちろんですが、こうしてたくさんの
お友達に囲まれている息子さんの姿を見られたことが
お母さんにとっては、何よりのプレゼントに
なったのではないでしょうか。

宴もたけなわ「みんなで上映会やろう!」と福田さん。
ご両親ともお約束をして、スタッフは福田家を後にしました。

フェスに、スキーに、キャンプにと、
いつもアクティブな福田さん。
無事に受け取ったお父さんのおっきりこみを、
きっと、みなさんに振舞ってくださることでしょう。

いつかやろうと思っていて、
ずっと先のばしにしてきたこと
向き合って、一緒に手を動かすからこそ
話せることがある
気づくことがある

レシピバトンを撮影してみての感想

47歳バツゼロ独身。

孫どころか嫁の顔すら未だ見せていないくせに、
一人で大きくなったような顔をした親不孝息子の典型。
加齢というのは恐ろしいもので、どんなに強がっていても手元は見えなくなり、酒を飲めばついつい弱気になる。
ネット上では陽気に自撮りなんぞしていても、不思議なことに親の事を思う瞬間が増えて来る。

そんな親不孝息子がある日レシピバトンに出逢った。


親不孝息子は横浜で生まれ育った。
幼少の頃より良く食卓に上った「おっきりこみこみうどん」。
きちんと小麦粉から手打ちするこのうどんが、横浜でなく、群馬の名産だと知ったのはだいぶ大人になってからだ。

群馬は父方のルーツである。
つまりその郷土料理である「おっきりこみ」は父が引き継ぎ、そしてその嫁である私の母が受け継いだ。
そういう意味では「お袋の味」というよりは「家族の味」かもしれない。
その「家族の味」はいずれ自分が、いや、自分の家族が受け継ぐんだろうとぼんやり思っていた。

気づけば47歳バツゼロ独身。
結婚の予定は「今のところ」ない。
親不孝息子はレシピバトンに出逢った。

次々と運び込まれる撮影機材。
あれだけイヤがっていた父親はカメラが回りだすと照れ隠しの冗談が増えてきた。
母親は終始楽しそうだ。そりゃそうだ。家族で料理をするなんて10年、20年ぶりじゃきかない。

父親の人見知りとシャイな部分、
母親の世話好きというより過剰なお節介。
二人に共通するのは「結果、ノリノリ」。
改めて自分はこの二人の息子なんだなと思う。

撮影前日は母親の誕生日だった。
楽しそうにキッチンに立つ両親の姿を見るなんて何年ぶりだろう。
レシピバトンのお陰でかけがえのない時間が過ごせた。
ほんの少しだけ自分なりの親孝行ができたように思う。

ちなみにおっきりこみのレシピは全く頭に入っていない。
まだしばらくは、おっきりこみを食べに横浜に帰ることにしよう。

Copyright © RecipeBaton All Rights Reserved.
本コンテンツ内に含まれる全ての著作物は著作権法により保護されています。